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DHAとEPA〜ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸〜ω-3脂肪酸
ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸のようなω-3脂肪酸は体によいと言われています。
トリグリセリド
私達がダイエットで減らしたい皮下脂肪、内臓脂肪は中性脂肪です。油脂とかトリアシルグリセロールという言い方もあります。水酸基-OHが3個ついたグリセリンというアルコールに炭素数の多い脂肪酸(高級脂肪酸)が3本エステル結合で繋がった有機化合物です。高級脂肪酸とは炭素数の多いカルボン酸のことです。有機化合物でいう"高級"とは、炭素数が通常6以上であることを意味するので、日常で使う"高級"とは意味が異なります。高級アルコールの場合も同様です。
グリセリンは代表的な多価アルコール(アルコール性水酸基-OHが2個以上のアルコール)で、グリセリンの分子構造はメタノールが3個つながったような形をしています。一般に、エステルesterとは酸とアルコールから水分子H2Oが取れてできたものの総称です。桃やバナナの香り成分にもエスエルが含まれています。酸成分はカルボン酸のみならず、硫酸H2SO4、リン酸H3PO4、硝酸HNO3などのオキソ酸(酸素酸)も該当します。しかし、塩酸(塩化水素HClが水に溶けたもの)はH+だけならエステル化の酸触媒にはなることは可能ですが、塩酸自体がエステルを形成することはできません。
油脂は1分子中にエステル結合が3個あるのでトリエステルとも呼ばれます。トリ(tri)は3を表わす接頭辞です。グリセリン1分子に高級脂肪酸3分子が結合したエステルです。水分子が3個外れることによってできます。高級脂肪酸部分の炭素数を意識しない一般名はトリグリセリドです。トリグリセリドは、油脂の大部分を占めます。トリグリセリドを形成する主な高級脂肪酸はパルミチン酸C15H31COOH、ステアリン酸C17H35COOH、オレイン酸C17H33COOH、リノール酸C17H31COOH 、リノレン酸C17H29COOHの5種類です。
パルミチン酸とステアリン酸は炭素-炭素二重結合(C=C)を含まない飽和脂肪酸です。オレイン酸、リノール酸、リノレン酸はC=C結合をそれぞれ1個、2個、3個有する不飽和脂肪酸です。オレイン酸は動物性脂肪や植物油に多く含まれている脂肪酸です。炭素原子間の二重結合を介して、CH3(CH2)8と(CH2)8COOHが結合している一価の不飽和脂肪酸です。炭素-炭素二重結合は酸化されやすいですが、オレイン酸はその二重結合が1つしかないのでリノール酸、リノレン酸よりは酸化されにくいです。リノール酸は、炭素数18で、9位と12位に炭素炭素間のシス型二重結合を2つ有しています 。リノレン酸は、α-リノレン酸とγ-リノレン酸とがあり、単にリノレン酸といった場合、α-リノレン酸を指します 。シソ油、ナタネ油、コーン油、サラダ油などに多く含まれます。食べると腸で吸収され、肝臓でドコサヘキサエン酸(DHA)に変化します。もし、トリグリセリドが1種類の高級脂肪酸のみから生成したものであれば、分子式(示性式)はC3H5(OCOR)3と表せますが、高級脂肪酸は主に5種類あるので、それらの中からランダムに3本がグリセリンにエステル結合しているトリグリセリドはいろいろな分子の混ざり物となっています。
トリグリセリドの脂肪酸部(カルボニル基>C=Oを除いた長鎖アルキル基Cn-1H2n-1部分)は、二重結合を含まない場合はCnH2n-1, 二重結合を含む場合は二重結合の数をmとしてCnH2n-1-2mで表わされます。天然の長鎖脂肪酸は炭素数nが偶数のものがほとんどですので、そのエステルのアシル基(>C=Oを含むすべての尻尾の部分)の炭素数は、飽和の場合は一般式Cn-1H2n-1CO-で、nは2から22ぐらいまでの値をとるといわれています。炭素数nが大きくなるにつれてファンデルワールス力の作用する部位が多くなるため、液体から固体になっていきます。その結果、油脂の融点は高くなります。炭素間二重結合(C=C)の数が0の脂肪酸を飽和脂肪酸、0でない脂肪酸は不飽和脂肪酸といいます。不飽和脂肪酸を水素化するとトランス脂肪酸になります。それゆえ、マーガリンなどが固まっているのはトランス脂肪酸が原因です。
天然の油脂を構成している不飽和脂肪酸は、すべてC=C部分で同じ側に曲がった形(シス型、またはZ型といいます)になっています。それゆえ、結晶化する際の分子どうしの接触効率は、トランスジグザグ形の立体配座(コンフォメーション)をとることができる飽和脂肪酸の場合ほど高くはありません。それは、二重結合部分で角度が変わっているため、隣接する分子とぴったりフィットしないからです。それゆえに、ファンデルワールス力が作用する点が少なくなり、同じ炭素数の飽和脂肪酸よりも融点は低下してしまいます。同様の理由で、それらの不飽和脂肪酸がエステル結合でグリセリンとつながった油脂の場合も、結晶化する際の分子の充填がうまくいかないため、相当する飽和脂肪酸の油脂よりも融点は低くなります。融点が高い油脂は脂肪、融点が低い油脂は脂肪油に分類され、植物性の油脂は脂肪油が多いといわれています。ちなみに北極熊の細胞膜には不飽和結合が多いらしいです。極寒の地でも細胞膜が結晶化しにくいようになっているのです。
不飽和脂肪酸の二重結合の数mは1〜3が多く、mが増加すると融点が低下し、また、空気中で固化(乾燥)しやすくなります。これは、空気中の酸素の攻撃を受けてC=Cの隣の炭素原子が酸化されてしまうためといわれています。これらの不飽和脂肪酸のエステルからなる油脂は酸化されて固まりやすいので乾性油と呼ばれます。アマニ油などは自然発火物質で、危険物第四類に分類されています。ペンキの溶剤などに用いられます。一方、オリーブ油のように固まりにくい脂肪油を不乾性油といいます。脂肪油のC=C二重結合に水素原子2個を付加して(すなわち還元して)飽和脂肪酸にすれば固めることができるわけです。このような油脂は硬化油と呼ばれ、上述のようにマーガリンなどに使われています。
高級脂肪酸の中のω-3(オメガスリー)脂肪酸
ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のうち、ω-3脂肪酸(オメガスリー脂肪酸)に該当するのはα-リノレン酸です。ω-3とは、末端の炭素原子から数えて3番目と4番目の炭素の間にC=C二重結合があることを意味しています。リノレン酸にはα-リノレン酸とγ-リノレン酸とがあり、α-リノレン酸はω-3脂肪酸で、γ-リノレン酸はω-6脂肪酸です。ω-6脂肪酸は末端の炭素原子から数えて6番目と7番目の炭素の間にC=C二重結合があります。ヒトはオレイン酸からγ-リノレン酸を生産できるといわれています。α-リノレン酸は荏胡麻(エゴマ)などの植物の種の中に入っている高級脂肪酸です。IUPAC名はall-cis-9,12,15-octadecatrienoic acid(all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸)です。ヒトは体内でα-リノレン酸からEPAやDHAを一応生産することができます。しかし、変換効率は10-15%程度といわれています。すなわち、食事でEPAやDHAを摂る必要があります。
DHAとEPA
DHAはドコサヘキサエン酸で、分子式C22H32O2, 分子量328.49, IUPAC名が(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸。Z型はシス型で、二重結合の左右の部分が同じ側に曲がっています。炭素数22で、二重結合が4番,7番,10番,13番,16番,19番に合計6個あって、しかも、その二重結合はすべてシス型になっているカルボン酸ということがわかります。無色の油状物。融点は-44˚C。二重結合をたくさん含んでいるため融点が下がって、室温では油状物です。EPAはエイコサペンタエン酸またはイコサペンタエン酸で、分子式C20H30O2, 分子量302.45。無色の油状物。融点は-54˚C〜-53˚C。IUPAC名が(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-(エ)イコサ- 5,8,11,14,17-ペンタエン酸です。炭素数20で、二重結合が5番,8番,11番,14番,17番に合計5個あって、しかも、その二重結合はすべてシス型になっているカルボン酸ということが名称から導かれます。IUPAC名の基本となる飽和炭化水素(アルカンalkane)の炭素数20のC20H22は以前はeicosane(エイコサン)と呼ばれていたのですが、のちにicosane(イコサン)となったため、それから誘導された名称はエイコサかイコサという部分が入っているわけです。DHAは青魚にたくさん含まれていて、DHAを食べると頭が良くなるとよく言われます。DHAは脳内にもっとも豊富に存在する長鎖不飽和脂肪酸であることがわかっているからでしょう。EPAは脳内に移行したのちDHAに変換されるといわれています。そのため、EPAも体によいものとして認識されています。しかし、ヒトはω-6不飽和脂肪酸及びω-3不飽和脂肪酸は合成できないので、食事やサプリで摂るという方法が最近注目されているようです。
次の話題は、紅葉のメカニズムです。
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