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使い方によっては薬も毒になる!?
毒に明確な定義はありません。毒とはものに備わっている性質ではなく、使い方によって決まるといわれています。薬でも使い方によって毒にもなるからです。
毒の分類
毒の起源による分類
毒と薬は紙一重。エタノールは水と混ぜて酒になっているわけですが、適量を楽しく飲めば百薬の長ですが、飲み過ぎると急性アルコール中毒になったりして生命が危ぶまれます。また、身体的依存性もあります。
有名な毒草のトリカブトは誤食等により中毒を起こしますが、漢方薬としても知られています。お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインも、大量服用すると死に至ります。
毒を起源によって分類すると、まず、自然界由来と人工の毒に分類されます。自然界由来の毒は、植物由来、動物由来、微生物由来、鉱物由来に分けられます。植物由来には、トリカブト毒、覚せい剤、動物由来にはヘビ毒、サソリ毒など、微生物由来にはボツリヌス毒素、コレラ菌、ワクチン、抗生物質、鉱物由来には無機化合物の硫砒鉄鉱、有機化合物の石油石炭などの成分があります。人工物の毒は、化学合成由来と鉱物由来の毒に分けられます。化学合成由来には、無機化合物の昇汞(塩化第一水銀)などと、有機化合物の農薬、殺虫剤などがあります。鉱物由来の毒には、無機化合物の亜ヒ酸、酸化第二水銀などがあります。
日本語では毒は毒ですが、英語の毒のいい方には、poison, toxin, venomの3種類があります。厳密に使い分けられています。
カルチャークラブのポイズンマインドという曲を思い出します。もう随分前のヒット曲です。私が大学生の時でした。ポイズンは、生物由来の毒や、化学合成された毒など含めた総称です。トキシンは生物由来の毒を言います。無理矢理に邦訳すれば毒素となります。ベノムは分泌毒または刺咬毒と訳され、毒蛇、サソリ、蜂等の毒腺から分泌される毒液を言います。つまり、ポイズンの一部がトキシンであり、トキシンの一部がベノムということになります。
作用による毒の分類
作用する時間の長さで分類すると、慢性毒と急性毒に分類されます。身体に与えるダメージで分類すると、実質毒、血液毒、腐食毒、糜爛毒、筋肉毒、神経毒、発ガン毒、遺伝毒に分類されます。そのほか、可逆性毒と、不可逆性毒、局所毒と全身毒などの分類もあります。1つの毒が複数のカテゴリーに属する場合もあったりしてなかなか複雑です。
化学的性質による毒の分類
全ての化合物は有機化合物と無機化合物に分けられます。現在、有機化合物は2000万種類にものぼるといわれており、無機化合物は数万種類と言われています。有機化合物は窒素原子Nを含むものと含まないものに分類することができます。前者はアルカロイドと核酸とアミノ酸・ペプチド・タンパク質の3つに分けることができます。有機化合物の中で、含窒素有機化合物は生物活性を示すものが多いことから、このような分類が便利です。
投与量とその効果
一般に薬効が認められる化合物において、最小有効量と最大有効量があります。最小有効量未満では効果がありません。最大有効量を超えると、何らかの中毒を起こしてしまうことになります。こうなると毒とみなすべきです。通常の治療では最小有効量と最大有効量の間の薬用量が用いられます。副作用の出現は最小有効量未満の濃度から考える必要があります。じわじわと体を蝕む毒性もあるからです。
副作用のない薬はありません。毒と薬は使いようです。
半数致死量LD50
一般に毒の強さの表現にはLD50(えるでぃーごじゅう)という数値を使います。LDはLethal Doseの頭文字をとったものです。映画でLethal Weaponというのがありましたね。50は100の半分ということです。つまり、半数致死量をLD50と表記します。単位は体重1 kgあたりの投与量(mgもあればμgもあります)となります。この数値が小さいほど、少ない投与量で死ぬことになります。すなわち、毒性が強いことになります。このLD50の値にあなたの体重(kg)を掛けてみましょう。あなたがもし100人いたと仮定して、その計算結果の量を全員に投与すると、半数の50人が死んでしまうということになるわけです。
強い毒ランキング
LD50は相互比較が難しいとされています。よって、あくまでも絶対的な順番ではないという前提のもとに、参考までにランキングしたものを見てみると、微生物や植物由来のものが上位に来ます。10番目にやっと化学合成したVXガスが来ます。有名な青酸カリは21番目にあります。フグ毒の毒性の1000分の1程度です。これらのデータは、天然物が無条件に安全というわけではないことを示唆しています。
列挙してみると、下表のようになります。
または最小致死量 |
||
---|---|---|
1 | ボツリヌストキシン | 最小致死量 = 0.0003 μg/kg |
2 | 破傷風トキシン | 最小致死量 = 0.002 μg/kg |
3 | マイトトキシン | 最小致死量 = 0.05 μg/kg |
4 | リシン | LD50 = 0.1 μg/kg |
5 | シガトキシン | 最小致死量 = 0.4 μg/kg |
6 | パリトキシン | LD50 = 0.5 μg/kg |
7 | バトラコトキシン | LD50 = 2 μg/kg |
8 | サキシトキシン | LD50 = 3 μg/kg |
9 | テトロドトキシン | LD50 = 10 μg/kg |
10 | VX | LD50 = 15 μg/kg |
11 | ダイオキシン | LD50 = 22 μg/kg |
12 | d-ツボクラリン | LD50 = 30 μg/kg |
13 | ウミヘビ毒 | LD50 = 100 μg/kg |
14 | アコニチン | LD50 = 120 μg/kg |
15 | ネオスチグミン | LD50 = 160 μg/kg |
16 | アマニチン | LD50 = 400 μg/kg |
17 | サリン | LD50 = 420 μg/kg |
18 | コブラ毒 | LD50 = 500 μg/kg |
19 | フォゾスチグミン | LD50 = 640 μg/kg |
20 | ストリキニーネ | LD50 = 960 μg/kg |
21 | 青酸カリウム | LD50 = 10000 μg/kg |
参考にした本は、
船山信次 著、毒の科学 毒と人間のかかわり、ナツメ社(2013年)
です。
次の話は、白髪染めが黒くなるのはどんな原理かを分子構造から考えてみた!です。
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