トップページ > ケミストが作ったお役立ちサイト > 白髪染め
白髪染めが黒くなる原理を分子構造から解説
白髪染めの原理を分子構造から独自に解説します。A液の黒色になる主成分はパラフェニレンジアミンまたはその誘導体、B液の主成分は酸化剤の過酸化水素水H2O2です。
2015年10月27日現在、ここ1週間でテレビでアレルギー反応に対する警告をけっこう目にしました。注意書きをよく読んで使うことが重要です。頻繁に染めることはよくないと思います。
個人的には、ヘアダイのアレルギーとハムやソーセージの発がん性が同じ日に報道された2015年10月27日(火)は、このサイトの意義を強く感じた日となりました。
白髪染めが黒くなるのはなぜ?
白髪染めの原理を分子構造から考えてみました。
A液には発色剤としてトルエン-2,5-ジアミン(アミノ基-NH2がメチル基-CH3(または-Me)の位置番号を1とした時の2位と5位に2個ついたメチルベンゼン、あるいはメチル基-CH3が付いたフェニレンジアミン)や、p-フェニレンジアミン(パラフェニレンジアミン)、p-アミノフェノールなどが入っています。
B液には主成分の過酸化水素H2O2が入っています。
A液とB液を混ぜると、基本的には酸化剤の過酸化水素がアニリンC6H5NH2(別名はアミノベンゼンC6H5NH2またはフェニルアミンPh-NH2)のアミノ基-NH2を-NH・にします。これが別のアニリンのアミノ基から見てオルト(o-)位かパラ(p-)位に結合して、-NH-でベンゼン環どうしが繋がります。これがどんどん進み、分子が高分子化して、さらに-NH-のところが-N=になってアニリンブラックが生成していきます。すると、それが共役二重結合(共役系、単結合と二重結合が交互に繰り返した系のことを共役系といいます)で繋がっているので可視光を吸収します。それが十分長くなると、最後は黒くなってしまうのです。
黒くなるのはアニリンブラックができるからです。アニリンが酸化剤でラジカルになり、次のアニリン分子のオルト位かパラ位に結合することは先に述べましたが、このアニリンをフェニレンジアミンに置き換えると、フェニレンジアミン1分子で2ヶ所>NーH結合で隣りのベンゼン環に繋がります。このとき、>NーH結合で繋がっているわけですが、最終的にHが抜けて二重結合が出来ます。このとき、共役二重結合(共役系)が伸びたことになります。十分に長くなると、すべての可視光を吸収することとなり、その補色(反射された可視光)の合計として黒くなってきます。しかし、アニリンブラックは単一の分子構造を持っているわけではありません。合成高分子化合物は必ず分子量分布(重合度分布)を持っています。こういった多分散であることが高分子化合物の代表的な特徴の一つなのですが、低分子化合物(重合によってできるわけではない逐次合成法でできる比較的小さい化合物)は一部の例外を除けばほとんどははっきりとした単一の分子構造を持っています。こういったものを単分散であるといます。タンパク質のような生体高分子も厳密にDNAにより作られるので単一の分子構造を持っている単分散高分子です。しかし、合成高分子化合物はいろいろな長さや立体規則性を持つ化合物や構造異性体の混ざりものだったりします(多分散高分子)。確率が関与しているからです。それゆえ、構造は繰り返し単位の一例を示すことによって、だいたいこういった感じのものという概念で示されることがほとんどです。よっぽど明確でない限り、末端基(高分子鎖の両末端に付いている官能基)も書かないのが普通です。
A液には染めた時の色合いを調節するための修正剤としてm-アミノフェノールやレゾルシン、カテコールなども入っています。
修正剤は基本的に共役系を遮断すると考えられるので、あるいは、メタ体はオルト体やパラ体より色合いが薄いと考えられるので、生成したアニリンブラックの黒色を弱くする役割を担うと考えられます(ここまで記述した文献を見たことはないので、有機合成化学者としての経験からの推測です)。すなわち、水酸基-OHはアミノ基-NH2ではないので、アニリンブラックの共役系を自分からは伸ばすことはできないのです。しかし、他から生長末端の-NHラジカル(-NH・)を受け入れることはできます。すると、それはある意味別の生長末端をterminateすることになりますから、共役系はフェニレンジアミンの場合と比べてあまり長くならないというイメージです。共役系がそこで遮断され、色が黒くなりすぎないようにするということです。
(これはどこかに書いてあったわけではなく、あくまでも一化学者としての考察ですので、絶対的な自信があるわけではありませんが、当たらずも遠からずという位置づけであることは確信が持てます。それゆえ、白髪染めに関するあるサイトで、他人のサイトの文章をコピペしたようなものがありますが、私が書いたこの文章を他のサイトで見つけたならば、明らかにそのサイトはコピペです。おそらく、同じ文章はネット上にはないと思います。どことは言いませんが、コピペした文章をそのまま載せているサイトはとても信用する気にはなりませんね。)
A液には発色剤としてp-ニトロ-o-フェニレンジアミンなども入っています。ニトロベンゼンC6H5NO2だけでも少し黄色っぽいのですが、それに助色団のアミノ基が2つも付いていれば、吸収する可視光の波長が若干長くなりニトロベンゼンC6H5NO2の黄色がオレンジ色側になり(長波長側にシフトし)、色あいも濃くなります。
黒色系の濃色の白髪染めの場合は、主鎖の共役系をより長くする必要があるため、1分子中に反応点を2つ有するジアミン系化合物(フェニレンジアミンおよびその誘導体)の量を多くする必要があります。
白髪染めが反応して黒くなっていくメカニズムはざっとこんな感じです。しかし、芳香族アミン類は発がん性が指摘されているため、取り扱いには十分注意しなければなりません。アレルギー反応にも気をつける必要があります。なので、頻繁に染めるのは良くありません。回数を少なくして、しかもできるだけダメージの少ない白髪染めが良いかもしれませんね。
2015年10月27日(火)の朝のNHK あさいちでもやっていましたが、ここ1週間ぐらい、テレビで報道されていました。アレルギー反応を起こす人が急増してるそうです。治れば大丈夫とか、ものをかえれば大丈夫とか、使用する48時間前に二の腕でパッチテストを行うのが面倒だからやらないとかが増えているそうです。
化学者の立場から言わせてもらうと、p-フェニレンジアミンのような試薬は実験中によく使用しましたが、使用する時に手で触ったりはしません。一般に芳香族アミンは体に悪いというイメージがあります。アゾ色素を合成する時に亜硝酸ナトリウムと反応させてジアゾニウム塩(Ar-N≣N+Cl-)(Arはこの場合はアルゴンではなっくてAryl基、アリール基のことで、ベンゼンなどの芳香族炭化水素から誘導された官能基または置換基を意味する)に変換して、フェノールやN,N-ジメチルアニリンのような電子供与基を持ったベンゼンなどとカップリングさせて、共役系を伸ばすことにより色素が合成できます。ヘアダイに使われているからといってむやみに恐れる必要はありませんが、説明書に書いてあることは確実に守りましょう。
Tweet