トップページ > ケミストが作ったお役立ちサイト > どの葉酸を選ぶ?
葉酸分子を最もたくさん含んでいるのはどれか
合成葉酸は天然葉酸と比べて分子構造はどう違うのかということと、化学合成品が悪いという考えは論理的ではないということについて述べたいと思います。また、葉酸はグルタミン酸が2個以上繋がっていると体内への吸収効率がよくないと言われています(1個がベスト)。吸収された葉酸は補酵素として働くので、単位重量あたり含まれる葉酸分子の数が多い方が働く酵素の数も多いということになります。このことから同じ400μgで最も多く分子が含まれる葉酸サプリは分子量の最も小さいモノマー型葉酸サプリということになります。これが合成で得られれば、分子構造もはっきりしていてコスパもよいことになります。
葉酸分子を最もたくさん含んでいるのはどのサプリか
「化学合成されたものは安全性に疑いがある」という旨の謳い文句を目にすることがあります。そのようなキャッチコピーは、インパクトがありますが、残念なことに、化学を知らない大多数の一般の人はそれに何の疑いも持たずに受け入れてしまいがちだと思います。それはある意味仕方ないことですが、もし本当に合成品が天然品より良くないのであれば、世の中のほとんどのものは良くないことになります。私たちのように化学の研究をしている者は世の中を豊かにするために働いているのに、根本から否定された気分になります。
あたりまえのことですが、化学合成したものがそうでないものと分子構造が異なっているわけではありませんので、化学合成の問題は不純物を除去できているかどうかなわけです。
合成化学に携わっている研究者は実際に世の中の役に立つものをつくり出すことを目標に切磋琢磨しているわけですし、精製法もたくさんあり、その技術も日進月歩で進歩しています。また、純度を確認する方法は、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーはもとより、MALDI-TOF-MSなどの最新鋭の分析機器もあります。そのほか、赤外分光法、核磁気共鳴スペクトル、元素分析などを駆使して合成物の構造確認をして矛盾なく説明できなければ学術論文も通りません。これが普通です。これらの複数の分析機器で純度、光学純度などを多角的に検討して問題がなければ、不純物が人に影響を及ぼすことはないわけです。すべての合成物が悪いのであれば、完全に天然物だけを使わなければなりません。
しかし、一般の人が意外に知らないことですが、毒といわれるものは天然物の方が圧倒的に多いですし、半数致死量LD50も天然物の方が低いです。すなわち、少量で危ないのです。薬でも使用法を間違えば毒になりますよね。水も飲み過ぎれば死にます。酸素も濃すぎれば害があります。エタノールも適量は体に良いですが、飲み過ぎれば有害で、常習性もあります。
化学合成した分子と天然の分子と分子構造は同じですので(ただし、高分子化合物は平均重合度や重合度分布を制御して同じものを作ることはできませんが)、極言すれば化学合成の問題は不純物を除去できているかどうかということになります。これさえクリアーできていれば、石油から作ろうが何から作ろうが関係ないと思いませんか?むしろ天然物より安くできるわけです。ターゲット分子を最初から絞ってピンポイントで合成していく方が、その合成経路は多少複雑だったとしても、結局は化学構造がはっきりしていて純度も高いものがたくさん得られるからです。天然物も無尽蔵にあるわけではありませんし、いろいろな混ざり物からほんの少しだけ分離できるわけですから、材料費、人件費などで高くなってしまうでしょう。(例えば、バイオエタノールといっても、トウモロコシやサトウキビを作る土地がそんなに確保できるわけではないから生産・製造に限界があることは理解いただけると思います。)しかも天然物、特に天然高分子は化学構造が単一ではなく、分子の長さなどに分布があって完全に単一の分子に分離できないのが一般的です。
葉酸には「食事性葉酸=天然葉酸」と「モノグルタミン酸型葉酸=合成葉酸」の2種類があります。モノグルタミン酸型葉酸は重合度n=1に相当し、ポリグルタミン酸型葉酸は重合度がn=2〜7に相当します。
厚生労働省が推奨し、安全性が確認されているのは、モノグルタミン酸型葉酸、すなわち合成葉酸です。疫学的研究も十分されていて、安全性は確認されています。
葉酸サプリは徹底した管理下の元で製造・加工されているかどうかに注目して確認すれば、合成品であっても問題ないと認識することが大切です。第一、安全性に問題があるものが長きにわたって売られているわけがないです。ほんの少しの統計的データをやたら誇張して書いてあるサイトもありますので、皆さん、常識的に判断してくださいね。
私ならどれを選ぶか
以上が有機・高分子化学を専門とする私の見解です(あくまでも一個人としてです)。化学合成品は悪いというわけではありません。病院で処方された薬はどうですか。対症療法に基づく西洋医学の薬は化学合成したものがほとんどです(東洋医学は予防の医学といえますが)。逆に世の中にいろいろな天然分子がありますが、天然分子なら安全というのは何の根拠もありません。一般には何でも使い方によって毒にも薬にもなるといわれます。その点をよく考えてみましょう。
私自身が葉酸サプリを試すとすれば(私も欲しいと思っているから調べたのですが)、どういう基準で選ぶでしょうか。計算結果から、400μgの中に最もたくさんの分子が含まれていて、吸収効率が高くて、安全にこだわった製造方法をとっているものを選びます(たくさん含まれているなら分けて使うことも理論的には可能ですが、ない袖は振れないからです)。すなわち、ポリグルタミン酸型葉酸よりモノグルタミン酸型葉酸に軍配が上がります。
でも、私だったら何を選ぶかというと、安いのを選びます。いろいろ補助的な栄養成分を入れて高くなっているよりは、最低限葉酸だけ入っていて、あとは何かが入っていても安い方をとります。葉酸は400μg入っていれば十分だと言われています。他の栄養成分が入っていないというのであれば、自然の食品から摂ります。だいたい昔の人は今のような葉酸サプリなんかなかったわけですし、それでもそんなに問題はなかったわけです。添加剤云々という人は、私達の日常の中にどれだけ添加剤が使われているのか認識した方がいいと思います。「添加剤=悪い」ということではありませんが、使われている状況は知っておくべきだと思います(→ 知っておきたい食品添加物のこと)。いちいち添加剤のことを気にしていたら食べるものはなくなります。そもそも葉酸サプリが本当に絶対に必要なものであれば、薬になるのではないでしょうか。昔の人は飲んでいなかったのでは。これらのことから総合的に判断すると、私だったらモノグルタミン酸型で最も安くてコストパフォーマンスが高いのがいいと思います。ほかにもいろいろな成分がブレンドしてありますが、それでもお手頃価格ならありがたいです。でも、必要以上に加えてあって高くなっているものは必要ないと思います。基本的に足りない栄養素は食事で摂りますし、葉酸が欲しいのであれば基本的に葉酸だけでいいと思うからです。他のものはリアルな食料から摂ります。
私が葉酸サプリを買うとしたらランキング順位はあまり気にせずに、入っているものにあまり大差がないなら躊躇なく最も費用対効果の高いもの(コスパのいいもの)にします。欲しいのは葉酸であって安くても高くても葉酸は葉酸だからです。安いけどいろいろなものが入っている分にはありがたいですが、葉酸以外のものも入れてあってその分高くなっている商品は本末転倒なので買う上で心理的抵抗があります。私は葉酸が目的なのですから安いのがいいです。添加物は絶対量が少ないし基本的に気になりません(それを言うなら食品に含まれる添加物の方がよっぽど気になります)。葉酸以外の他の栄養素はできるだけ食事で補う努力をすべきだと思うからです。サプリはあくまでもsuppliment(補助)なので、リアルな食料から栄養素を摂るようにすることは忘れないようにしたいものです。
化学合成品がどうだとか、石油から作ってあるからどうだとかいうサイトを見ると、自分の商品を売りたいがためだけの方便に見えます。そういう人は西洋医薬は摂らずに東洋医学だけを信じるのでしょうか。ひどいのになると石油が「入っている」というむちゃくちゃなことを書いているサイトもあります。そんなことがあるわけないじゃないですか。医師の顔写真付きで医師に監修してあるようなサイトでも化学者から見たらおかしなことを言っているのもあります。医師は作用機序とかは知っていても、いつも薬品を扱っている化学専門の博士よりも合成化学や工業化学の観点から広く深く知っていることはないと思います。だから石油は入っていません。皆さんも自分の目でいろいろなサイトを確認してみれば荒唐無稽なことが書いてあるということがおわかりいただけると思います。そもそも安全なものだから売られているわけですので、化学合成品がだめということはありません、石油は入っていません。合成化学を専門としているケミストとしては間違った情報が垂れ流されているのは看過できません。これは間違った情報が素人ライターによりさらにリライトされてネットの世界でグルグル循環しているだけだから起こるのではないでしょうか。ネット社会ではウソも言い続けられるといつの間にか正しいこと(ネット社会限定の常識)になりそうです。各自が情報リテラシーを上げて正しい認識を持った上で自分で正しい判断をすることが重要です。
次のトピックは、補酵素のテトラヒドロ葉酸についてです。
Tweet