色素増感太陽電池
Dye-sensitized solar cell (DSSC)
色素増感太陽電池(DSSC)は、有機色素が光を吸収して電子を酸化チタンTiO2に渡し、酸化チタン薄膜が陰極となる電池です。半導体である酸化チタンを透明電極に塗布して約450˚Cで焼くと、アナタース(アナターゼ)型結晶の薄膜となります。それに有機色素を吸着させたものを陰極に用います。正極には白金Ptや炭素Cを用いることができます。負極と正極の間にはヨウ素I2とヨウ化カリウムKIをエチレングリコールに溶解した電解質溶液を挟み、文房具のクリップで固定するだけでよいのです。有機色素を吸着させていない酸化チタン薄膜に太陽光を当てた場合、エネルギーの大きい紫外線だけが有効ですが、量が少ないので電流はほとんど流れません。一方、TiO2に配位できる官能基、たとえばカルボキシル基(—COOHなど)を有するある種の有機色素を吸着させた酸化チタン薄膜を用いた場合には、可視光を吸収することができます。可視光は紫外光よりも波長が長いのでエネルギーが小さいにもかかわらず、太陽光に占める割合が圧倒的に多いので、利用しない手はありません。可視光を吸収した色素は電子をTiO2の伝導帯に落とすことができます。このときに必要な励起エネルギーは、色素なしの条件でTiO2の価電子帯から伝導帯に電子を励起させる紫外線のエネルギーよりもかなり少なくて済みます。このように、有機色素を用いることによって可視光の低いエネルギーでも半導体に電子を流すことができるので、色素増感太陽電池という名称がつけられました。
本電池の伝導帯に入った電子は回路を回って正極に達し、そこで I3− + 2e− → 3I− となり還元されます。3I− は電解質溶液中を移動して色素上で 3I− → I3− + 2e− のように酸化されます。このようにして1サイクルが完成することにより電子が回路を流れることになります。すなわち、電流は逆方向に流れることになります。組み立てが簡単で、低コストであることから、次世代の太陽電池と期待されました。変換効率は理論上は33%まで可能といわれているにもかかわらず、最初に開発されてから20年経つ現在でも、光電変換効率は10%をやっと超えた程度にとどまっています。変換効率30%が達成できたとして、やっと火力発電と競合可能です。このように、光電変換効率はあまり向上していないのが現状であり、光に対する有機色素の耐久性も低いことから、化石燃料の代替エネルギーとしては現段階では厳しいと言わざるを得ません。しかし、柑橘系の植物の葉っぱや、ザクロの果実、ハイビスカスの花などの色素が増感剤として機能するので、市販の教材を購入すれば、興味深い実験が簡単にできます。