こんにちは。熊の実です。
よくレコードはCDよりも音が良いといわれます。それは理論的には正しいのですが、ある意味当たっていません。実際はいろいろなケースが考えられます。(ここでいう「良い音」とは、レコードに記録されている音自体のことであって、レコード再生時のバックグラウンドのスクラッチノイズ等は含みません。「ポツポツ」とかいう音が出ないことも含めて「いい音」と定義するならばCDの方が安心して聴けるので「良い音」かもしれません。)
レコードがCDよりも音がいいというのは条件を揃えて比較した場合のみに言えることだと思います。再生システムが今ひとつだったり、元々の音源の履歴によってはそうは言えないことは容易に想像できます。
たとえば、いくら音源のクオリティーが高いレコードを持っていても、レコードプレーヤーが低品質だったり、レコード針が摩耗していたり、スピーカーが全然だったりといった場合、出て来る音がいいということにはなりません。そんな感じで、いろいろな場合が考えられます。
考えられる条件の違いの例:
レコードプレーヤーの性能
スピーカーの性能
スピーカーとイヤホンで比べることは論外
CDプレーヤーの性能
アンプの性能
スピーカーのケーブルが太くて性能のいいもの
音源の履歴が同じであること
(特にアナログの場合はテープのダビングごとに音質は低下していくし、磁気テープの長期保存によって隣接するテープの磁気が写ったりすること。よくレコードによっては最初の1曲をかけた時に、曲が始まる前に何か聞こえるものがあります。それは巻いてあるテープの磁気が写ったものです。私の持っているビートルズのLPでも「She Loves You」の前にそれがありますし、サザンオールスターズの「Nude Man」の1曲目の前にもそれがあります)。
その他・・・。
元々のレコードがデジタル時代の前のアナログ時代のものであって、マスターテープの音源をダビングして音質が低下していたり、レコードを作成する前に音質を弄ることもできるので、そこで変わってきたりします。デジタルはコピーしても品質は原理的に低下しませんが、磁気テープの音源はダビングを繰り返すたびにS/N比が悪くなったりいろいろな問題が生じて音質が元のものより低下します。経年劣化もあります。そういう音源でレコードを作っても、そうしていない音源で作ったCDよりも音がいいとはいえないかもしれません。
つまり、レコードとCDの音を比べるにはパラメーターが多すぎるということです。それらを極限まで絞り込んで(消去して)、しかも音源の履歴が同じものという条件の下であれば、理論的にレコードの方が音がいいという確認ができるかもしれません。
でも、そういう条件で’60年代、’70年代、’80年代のレコードとCDで比べることは現実的には難しいです。現代の技術でこれから作るレコードとCDでそれを意識してやったら比較できるかもしれませんが、昔発売されたレコードとCDの音源では比較は事実上不可能な気がします。まず、音源の履歴や素性がわかりませんし、国やレコードの材質やその他、条件が様々だからです。
アナログの方がデジタルよりも音が良いというのは理論的には正しいと思います。デジタルの方はデータを間引きされているというイメージだからです。レコードの方は実際は人間の耳に聞こえない周波数も全部含まれていて、倍音効果で音が良くなったりとか、いろいろメリットが説明されています。でも、レコードに刻んだ音が元々悪いものであればそうは言えなくなるでしょうし、レコードは材質由来のバックグラウンドのノイズがあります。さらに、傷が付いたら周期的にポツポツと音がしたり、針飛びもあります(QUEENのTHE SHOW MUST GO ONのエンディングのようなループの場合もあれば、先に飛んでしまう場合もあります)。かなり反ってしまっている盤もあって、針が持ち上がりそうでヒヤヒヤするものもあります。それらの影響によってレコードよりもCDやハイレゾの方が音が良いことだってあるでしょう。このようにいろいろなケースがありえます。ただ、ここで論じている音とは、材料由来のノイズも含めた音ではなくて、その媒体に記録されている音自体と、そこから再生されて出てくる音の両方を指しています。媒体由来のノイズまで含めたトータルの音の良さであればレコードは負けるかもしれません。コンパクトディスクに比べると管理が難しいからです。CDやBlu-rayはボリュームを上げてもバックグラウンドのノイズはほとんど気になりません。なので、針飛びやノイズを気にすることなく、安心して聴くことができます。
レコードの方がCDよりも音が良いと言う時は、「メディア以外の条件が同じだったら」という条件付きが必須です。メディアとはレコード盤とcompact diskのことで、条件には音源が全く同じであることも含みます。この手の話題にはそのあたりのことがいつも抜けているように感じます。
限りなくパラメーターを消去していき、履歴を含めて同じ音源を使った時のみ実現できることで、実際はそのようなことは現実的には不可能です。レコードの方がCDよりも音が良いというのは理論的には説明がつきますが、一部のオーディオマニアを除く多くの人にとっては実際はプラシーボ効果的な要素が大きいような気がします。
レコードを聴くのは、好きな人にとってはある意味儀式のようなものです。正座をして、ジャケットを前に置いてじっくり聴いてもいいくらいです。私の場合は、居眠りするとA面の終わりでレコードが回り続けてレコード針の寿命も短くなるので、すぐにB面に移れるように緊張感を持ちながら聴きます(もう30年になるのでアームが自動で上がらなくなってしまいました)。左右のスピーカーと自分の位置でできる二等辺三角形の頂点に自分がいるという感じで聴きます。また、再生するごとに消耗されるのがレコードなので、その無常感、刹那感を感じながら死ぬまでにあと何回聴けるだろうかと思ったりします(笑)。
ただ、デジタルは原理的には消耗しませんが、CDなどのディスクを物質として見た場合は永遠ではないですね。アルミが剥がれたり、ポリカーボネートに傷が付いたりと、いろいろなケースが考えられます。
ビートルズのLPでシリアル番号が1のものが初回プレス盤で、最も原音に近いといわれていて、かなりの高額で取り引きされているといいます(ちなみに私の持っているビートルズの輸入盤は全然違う番号でした)。ということは、音が良いに越したことはないですが、何をもって音がいいとするかという問題もあります。それより、どれだけオリジナルの音に近いかがマニアにとっては重要なわけで、それを再現できるのはデジタルよりもアナログ盤ということではないでしょうか。たとえ1960年代のサウンドであってもです。ビートルズの作った元の音楽にできるだけ近いものを聴きたい、できるだけオリジナル音源に近いものが欲しいというのが本質的なところではないでしょうか。だからCDで聴くよりレコードで聴きたい、同じレコードでも母国英国盤で初回プレスのもので聴きたいというところが本質のような気がします。ということは、多くの人にとっては、CDよりもレコードの方が音がいいというのはあまり意味がないように思います。昔のレコードよりも今のCDの方が音自体は断然いいと思いますが、多少音が悪くても初回プレス盤に近いものが欲しいというこです。ちなみに私はビートルズであればレコードを買った上で、CDも買いました。全部輸入盤です。B’zの「EPIC DAY」もCDとレコードの両方を買いましたが、どちらもいいです。音自体は現代の方が断然いいと思います。だから、レコードの方がCDよりも音がいいというのは理屈ではそうでも、実際はわからないくらいかなりのハイレベルなところでの話ではないでしょうか。
結論
100万円以上かけたオーディオを持っているようなマニア以外は、レコードの方がCDよりも「音がいい」という議論はあまり意味がないのではないかというのが私の結論です。いかにオリジナルに近い音を聴きたいかという方が評価基準がはっきりしていてわかりやすいです。でも、結局は何をもって個人が満足するかということだと思います。ビートルズの母国発売の初回プレスの超レアなLPレコードと、2015年11月に発売されたBlu-rayやDVDやCDのどちらが欲しいかといえば、できれば全部欲しいですね。私は2015年11月にはBlu-rayとLPレコードの両方買いました。レコードの方が理屈では音がいいはずですが、私の持っているオーディオシステムではBlu-rayの方が音がいいです。でもどちらも好きです。今風の音には今風の良さがありますし、変わった点はどこかをチェックするのも楽しいです。例えば、Eleanor Rigbyは昔の音源ではポールのボーカルが始まりから間もなく右側に移動していきますが、近年のバージョンでは中央で歌っているようにアレンジされています。でも、私は現代の技術で編集し直したビートルズの音源よりも、昔の発売当時の音でできるだけオリジナルの音に近い音源の方が興味があります。ビートルズが作ったのは後者の方だからです。その空気を感じたいのです。だからその当時の母国(英国)のレコードが欲しいです。(もちろん人それぞれです)
それでは、また。
P.S.
ちなみに、2016年4月14日の熊本地震以降、余震が頻発していた時期に思ったのは、こういう時はCDやDVDの方なら安心して聴けるけれども、レコードは聴けないということです。もっとも、なかなか聴く気分にもなれないのですが、聴いているところで揺れが来たら、小さい揺れだったら針飛びぐらいで済むかもしれませんが(それでもいやですが)、大きな揺れが来たらもう目も当てられない状況になると思います。レコードにもレコード針にも、レコードプレーヤーにもかなりのダメージがあるでしょう。いつ揺れるかわからない状況で大事なレコードに傷が付くかもしれないと思うと、怖くて聴けません。そんな手のかかるところもレコードの一つの魅力ではあるのですが・・・。