西郷どん第11回で出てきた鹿児島弁と銀による毒の検出についての解説

こんにちは。熊の実です。

「西郷どん」の第11回を2018年3月18日(日)の20時からNHK総合で見ました。

第11回の「西郷どん」は「斉彬暗殺」でした(でもまだ第11回終了時点では亡くなっていません)。将軍継嗣問題で南紀派の井伊直弼は次の将軍に徳川慶福(とくながよしとみ、後の第14代将軍徳川家茂(いえもち)の紀州藩主時代の名)を擁立しようと企んでいて、一橋派の島津斉彬は英邁(えいまい)の誉れ高い一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ)を立てようとしていました。そこで、斉彬がいろいろな人から狙われていて誰かに毒を盛られているという物語でした。いろいろあやしい人物が出てきましたが、詳細は来週にわかるかもしれません。

それではその第11回放送分の中で出てきた鹿児島弁について見ていきましょう。

第11回放送の中で出てきた鹿児島弁の単語やフレーズを時系列でリストアップ

以下は3月18日(日)の第11回放送の中で出てきた鹿児島弁の単語やフレーズです。聴き取れなかった箇所があったとしても、意訳して自分なりの鹿児島弁になっています。

単語やフレーズ 意味
とらじゅまるさま、ないごて 虎寿丸様、なぜ?
そなたにはこころがなかとな! あなたには心がないのですか!
いまごろなにようじゃ?はいれ こんな時間に何の用だ?入れ!
こいでごにんめか これで5人目か
おきのどくに お気の毒なことです
おゆらさまはひさみつさまをはんしゅにしよ(う)ちまだあきらめちょらんとでごわんそか お由羅様は久光様を藩主にしようというのをまだ諦めていないのであろうか?
こんどちゅうこんどはゆるさん! 今度という今度は許さん!
まってなどおっか?(私なら「まってなどおっか?」と言います) 待ってなどおられるもんか!
おい、おおくぼ、ぶんせいしちねんのたからじまのいっけん、きろくがどっかにあったちおもで、さがしちょってくれんか おい、大久保、文政7年の宝島の一件、記録がどこかにあったと思うので見つけておいてくれないか
ないごてそげなふるかきろくなど? なぜそんな古い記録などを?
じゃっでよ、とののおとうとぎみがよみたかちおおせじゃっで だから、殿の弟君が読みたいと仰っているから
みつからんか!? 見つからないか?
まだみあたいもはん まだ見当たりません
おぬし、なはないな? お前、名前は何だ?
ちちうえにおあずけしたわたくしのいのちをつかってたもんせ 父上にお預けした私の命を使ってくださいませ
どくがもられちょっかもしれもはん 毒が盛られているのかもしれません
うたがいがはれるまでそんおしょくじにはおてをつけぬようおねがいいたしもす 疑いが晴れるまではそのお食事にはお手をつけにならないようお願いいたします
との、どくならばなにもののしわざかかならずやつきとめもす 殿、毒ならば何者のしわざか必ず突き止めます
おいはいまだいもしんじちょいもはん 私は今、誰も信じていません
どくがもられちょっかどうか、しらべていただけもはんか 毒が盛られているかどうか、調べていただけませんか
やっぱいどくがもられちょっちゃなかかち やっぱり毒が盛られているのではないかと
こうぶつであるひそはぎんにはんのうします(←これは鹿児島弁ではないですが挙げておきます) 鉱物であるヒ素(砒素)は銀に反応します(※これについては詳細に後述)
なんち? 何だって?
わいが お前が
もどっちょけ(←「もどっておけ」という感じ。「戻っちょれ」でも通じると思います) 戻っていろ!
おまえのはたらきはようおいのとこいまできこえてきちょっど お前の働きはよく私のところまで聞こえてきているぞ
そんほうびちおもい、えんりょなくうけとれ その褒美と思い、遠慮なく受け取れ
くえ 食べろ
だいのしわざでございもんそか 誰の仕業でございましょうか?
・・・ございもはんどん ・・・ではないですけれども
(「どん」で終わると従属節で、「ではないですけれども」の意味。英語の「Thougu 〜, 」または「Although 〜, 」と同じ。「・・・じゃっどん」(・・・だけど)も同様)
あいつをにくんじょっとはほかにもやまほどおっど あいつを憎んでいる者は他にも山ほどおるよ!
にどとそんかおをみせんな[みすんな](※私にはテレビでは「みせんな」と聞こえますが、私なら「みすんな」と言います) 二度とその顔を見せるな!
おおとのさまからおよびだしがございもした 大殿様(島津斉興)からお呼出しがございました
第11回で出てきた鹿児島弁について

これまでの10回で使用頻度の高い鹿児島弁はだいたい出てきたといえます。今回初めて出てきた鹿児島弁はそんなにたくさんはありませんでした。

頻出するパターンをあえて挙げるとすれば、「り」や「れ」が「い」になるパターンです。

こいで → これで
おいは → おれは
だいも → だれも
やっぱい → やっぱり

ほかに、「ちゅう」というのがけっこう出てきますね。「ちゅう」は「という」です。

否定形の「もはん」も覚えておいて損はないと思います。意味は「ません」です。「すんもはん」だったら「すみません」です。

ついでに「み」が「ん」になるのも覚えておきましょう。「すんもはん」→「すみません」のほかに、鹿児島ではたとえば「隅っこ」を「すんくじら」と言ったりします。「すみ」は「すん」になるのですが、なぜか「くじら」が付いています。この「くじら」はwhaleのことではありません。例としては「じぇんなそんすんくじれ、あやしもはんか」(お金はその隅っこにありはしませんか)とかです。英語で言うリエゾンのような感じで変化していますが、それを元に戻してみると「ぜにはくじらに、ありはしもはんか」といった感じになるでしょうか。それをもっと言いやすくすると「じぇんなくじらぃ、ありゃしもはんか」という感じになり、さらに砕けた言い方にすると「じぇんなそんすんくじ、あしもはんか」という風に元に戻ると考えると、何となくわかりませんか(書いている本人も難しいと思います)。でも、鹿児島の人たちの中でそれを文字に起こしたことがある人はほとんどいない、あるいは小学校の作文で書いたことはあっても、普通の生活の中で活字にしたことがある経験はかなり少ないのではないでしょうか(わかりませんが)。なぜならば、鹿児島弁は活字にするとネイティブでもなかなか読解できないからです。それはやはりイントネーションや流れで意味をとるところが大きいからだと思います。

やはり、鹿児島弁は実生活の会話の中で身につけていったもので、文字に起こすのには向かない言語だといえると思います。

なぜ銀製のピンセットを焼き魚に突っ込んだら黒くなったのか

風間俊介君の演じる蘭方医の橋本左内が銀製のピンセット(みたいなもの)をヒ素を含んだ焼き魚に突っ込んで、抜きとった時に黒くなっていました。そして「鉱物であるヒ素は銀に反応します」と言っていました。しかしここでツッコミをいれておく必要があります。これは化学的には間違いです。黒くなったのは硫化銀が生成したからであって、ヒ素が銀と反応したのではありません。ただ、ドラマではそこまで厳密に言うと話が複雑になり、視聴者にはわからないと思います。だからその必要はないということで「ヒ素は銀に反応する」としたのだとすれば、まあ、理解できなくもありませんが。中国や韓国の宮廷もののドラマでも銀製の容器や箸で毒が盛られていないかを判別するというのがありました。私が以前、「チャングムの誓い」を見ていた時もそういったものがありました。でも、その時は具体的に「ヒ素」とは言ってなくて「毒」でしたけど。まあ、当時、毒の種類も限られていたでしょうから、大抵はその方法で判別できたのでしょう。

では、なぜ「ヒ素は銀に反応する」と言ったのでしょうか。私は化学が専門ですが、ヒ素と銀が反応すると聞いたことがありません。

昔はヒ素の化合物に不純物として硫黄の化合物が含まれていた

ヒ素は元素記号Asの典型元素で、周期表では5A族です。族とは周期表の縦のラインを表わしています。5A族は上から窒素N、リンP、ヒ素As、アンチモンSb、ビスマスBiです。最外殻電子の数は5個なので、あと3個の電子を別の原子から受け取って8個になるように化合物を形成します。一方、銀Agは1価の陽イオンになることができる重金属です。

注意:
以下、化合物の組成式の後ろに括弧書きで例えば(2は下付き)とか(+は上付き)のように付けています。私の使ってるこのWordPressテーマでは上付き下付きが効かないんです(泣)。TCDさん、そこ何とかなりませんか。

ドラマでは、焼き魚にヒ素が盛られていて、銀と反応して黒くなったという設定でした。この黒い化合物は硫化銀Ag2Sです(2は下付き)。硫黄Sは酸素Oと同じ6A族の典型元素で、上から酸素O、硫黄S、セレンSe、テルルTe、ポロニウムPo、リバモリウムLvです。最外殻電子が6個なので、あと2個の電子を受け取って8個になった形で化合物を形成します。よって便宜的にS2-(2-は上付き)と考えることにします。一方、銀Agは1価の陽イオンになる重金属なので、化合物を形成する時は便宜的にAg+(+は上付き)であると考えます。すると、単体の銀Agと硫黄が反応すると考えた時、Ag+(+は上付き)とS2-(2-は上付き)の最小公倍数は2なので、電気的にプラスとマイナスが釣り合うように組み立てるとAg2S(2は下付き)となります。この銀のピンセットかハサミのように見えた器具の表面が黒くなっていたのはAgの表面にAg2S(2は下付き)が生成していたことを意味します。

ヒ素の製造に使う硫砒鉄鉱を加熱して冷却すると亜ヒ酸(As2O3)(2と3は下付き)が結晶として得られます。亜ヒ酸といえば正確にはAs(OH)3(3は下付き)なのですが、水溶液中でしか存在できず、単離できないといわれています。それもあってか2個のAs(OH)3(3は下付き)から水分子H2O(2は下付き)が3個脱水した形に相当する組成式As2O3(2と3は下付き)も亜ヒ酸と呼ばれることが多いようです(ここに出てきた化合物は水分子H2O(2は下付き)以外は分子ではなく、最も簡単な整数比で表わした組成式です)。でも、昔は精製技術が進歩していなかったこともあって硫黄の化合物もどうしても混ざってしまったのです。だから、ヒ素の化合物である亜ヒ酸を食べ物に盛ったら、不純物の硫黄化合物(硫化物)と銀Agが反応して表面がAg2S(2は下付き)になって黒くなったというわけです。ヒ素は無味無臭と言われているので、食べ物に混入してもわからなかったのでしょうか。いくら無味無臭とはいえ、何か違和感はありそうなものですが、ないのでしょうね(確かめられません)。少なくとも不純物の硫黄化合物は多少なりとも臭いと思います(温泉地の代表的なにおい成分は硫化水素H2S(2は下付き))。でも、焼き物料理に混入していたら意外とわからないかもしれませんね。

この方法は化合物の存在状況から考えた間接的な検出法なので、ヒ素を直接検出しているわけではありません。状況が異なってくればこの方法は使えません。当時の限られた毒物の中で通用した判別法といえます。今だったらターゲットとする物質を直接検出しない限りだめでしょう。化学の論文にするなら直接そのものを検出する方法しか審査に通る道はないと思います。

ちなみに銅Cuの場合も硫化物は黒いです。銅イオンは一価のCu+(+は上付き)と二価のCu2+(2+は上付き)があるので、硫化銅Cu2S(2は下付き)とCuSの混合物ができると思います。それらはいずれも黒色をしています。もし、皆さんが温泉地に行って、硫黄泉に新しい十円玉を浸けたり、硫黄のにおいのする場所に置いていたら黒くなるかもしれません。私はやったことはありませんが、理論的にはあのきれいな十円玉の表面は変化していくと思います。でも、わざわざそんなことをしてもメリットはないですね。

第11回の西田敏行さんの最後のナレーション

第11回の最後の西田敏行さんのナレーションは「今宵はここらでよかろかい。せごどん、チェスト、きばれ」とシンプルに終わりました。そのあとのシーンで井伊直弼が話しているところがあって来週に続きとなりました。誰が毒を盛っていたのでしょうか。

第12回は「運の強き姫君」です。

それでは、また来週。

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鹿児島弁の五十音表
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